喫煙に関するリスクは多くの研究で明らかになってきています。
中でも受動喫煙は、非喫煙者の健康被害リスクが喫煙者以上に高まるとして、非常に危険です。
国内においても、喫煙対策の1つとして受動喫煙防止に関する動きが法改正をきっかけに高まっています。
今回は、喫煙のリスクを振り返るとともに、法などの観点から企業が取り組むべき禁煙対策を事例付きで紹介します。
あらためて喫煙の危険性をおさらい
「喫煙は健康に悪い」ことはみなさんご存知かと思います。
ここで改めて、どう危険なのかについて簡単に振り返っておきましょう。
喫煙のリスク
喫煙をする本人に対するリスクから見てみましょう。
日本医師会のHPでは、喫煙の健康被害について紹介しています。※1
現在は、国内外の研究から「ほとんどの部位のがんの原因になる」と言われています。
●がん
●脳卒中・虚血性心疾患などの循環器疾患
●慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患
●糖尿病
●妊娠周産期の異常(早産、低出生体重児、死産、乳児死亡など)
受動喫煙のリスク
受動喫煙とは、喫煙者のたばこの火から出る副流煙を周りの人が吸い込んでしまうことです。
副流煙の毒性はとても高く、主流煙(喫煙者が直接吸う煙)と比較すると、ニコチン2.8倍、タール3.4倍、一酸化炭素4.7倍にもなります。
受動喫煙との関連が「確実」とされている疾患が4つあります。
●肺がん
●虚血性心疾患
●脳卒中
●乳幼児突然死症候群(SIDS)
我が国では、年間約1万5千人が受動喫煙で死亡しており、非常に深刻な問題で、受動喫煙対策に取り組んでいく必要があります。※2
参考※2 受動喫煙ー他人の喫煙の影響 厚生労働省eヘルスネット
企業の受動喫煙対策 法的責任
世界保健機構(WHO)が2015年に「たばこ規制枠組条約」を発効しました。
本条約は、締結国に法的拘束力のある国際条約で日本も加盟しています。
そのような背景から国内では受動喫煙防止対策の整備がすすみ、2020年4月には健康増進法や職業安定法施行規則の一部改訂が適応されています。
企業の受動喫煙対策も必要となっており必ず把握しておきたいのは、法の改正が行われた健康増進法、職業安定法企業施行規を含めた4法案です。
詳しく解説します。
健康増進法
2020年4月より、改訂された健康増進法が全面施行されました。
『マナーからルールへ』として望まない受動喫煙を防止するための取り組みの位置づけが変わっています。
これによって、施設の区分に応じて一定の場所を除いた喫煙の禁止と、施設の施設の管理権限者が講ずるべき措置が定められています。
この義務に違反すると、都道府県から企業に対して指導・勧告・命令・企業名の公表といった措置や罰金が科されることがあります。
●望まない受動喫煙をなくす
●受動喫煙による健康影響が大きい子供や患者等には特に配慮する
●施設の種類や場所ごとに受動喫煙対策を実施する
上記3つは、健康増進法の基本的な考えです。
つまり、多くの企業においては、室内での喫煙は原則禁止。
学校、病院などの配慮が必要な施設では敷地内全面禁煙など、施設によってルールが異なるため注意が必要です。
この法案に基づいて企業が行うべき対応は以下の3つです。
●喫煙室もしくは脱煙機能付き喫煙ブースの設置
●喫煙可能スペースには標識掲示を設置
●20歳未満の喫煙エリア内への立ち入り禁止
●屋外喫煙所の設置
企業において喫煙を認める場合には、事業所分類や場所に適した形かつ、室外にたばこの煙が流出しないよう定められた基準に沿った喫煙室の設置が必要です。
細かな条件については、「なくそう!望まない受動喫煙|厚生労働省「改正法のポイント」をご覧ください。
「屋外喫煙所」については、室内完全禁煙として、一定の条件を満たした喫煙所であれば屋外に設置することが可能です。
<屋外喫煙所を設ける際の注意点>
・施設の出入口や吸気口、人の往来がある場所から十分な距離をとる
・たばこの煙の滞留や、建物内への流入に注意する
・近隣に学校や通学路、児童公園などがある場合は、その方向に煙が流れないか注意する
職業安定法施行規則
2020年4月かで一部改正が行われた法案の1つです。
企業の受動喫煙対策について、採用や募集時に明示することが求められるようになりました。
求人募集の際に、賃金や労働時間に加え、企業が行っている受動喫煙対策が「室内喫煙」「喫煙可」「室内原則禁煙(喫煙室あり)」などを記載することになります。
働く場所が複数になる場合は、全て明記することが必要です。
安全配慮義務
従業員が健康で安全に働けるよう配慮した環境を企業が整えるべきだという義務が表されています。
企業が、回避出来る可能性が高い問題に対しての安全配慮義務を怠った場合、安全配慮義務違反となる場合があります。
つまり、従業員が受動喫煙による被害を受けていたにも関わらず対策が出来ていない場合は、慰謝料請求されることもあります。
これに関して企業が行うべきことは、対策についての「実践」と言えます。
労働安全衛生法
従業員の健康を守り、受動喫煙を防止するためにも、事業者および事業場の実情に応じ適切な措置を取ることを努める義務(努力義務)が全ての企業に課せられています。
労働安全衛生法においては、「努力義務」となっていますが、上記にしるした3つの法案のきまりからも、努力義務以上の対応が必須のなっているのが実情です。
健康経営における喫煙対策の位置づけ
出典: 健康経営銘柄2022選定及び健康経営優良法人2022(大規模法人部門)認定要件
健康経営においても、喫煙対策の重要度は年々上がり注目されています。
特に優良な健康経営の取り組みを行っている企業は「健康経営優良法人」として認定を受けることができます。
健康経営優良法人認定のためには、認定要件をクリアする必要がありますが、認定要件は大規模法人部門と中小規模法人部門で異なります。
受動喫煙対策については、大規模法人部門・中小規模法人部門の両方において「必須項目」となっています。
2022年からは、受動喫煙対策に加えて、「喫煙対策」についての項目も健康経営の取り組みとして選択できるよう加えられました。
具体的には、「従業員の喫煙率低下に向けた取り組み」という項目です。
このように、健康経営における「喫煙対策」も今後ますます需要が高まっていくと予想できます。
企業ができる受動喫煙対策
法律、そして近年注目を集めている健康経営など、企業での喫煙対策が求められていることはよく理解いただけたと思います。
ここからは、実際に企業ができる喫煙対策をより具体的に紹介していきます。
受動喫煙防止に向けた対策
受動喫煙防止に向けた対策として、企業ができる取り組みは大きく分けて3つです。
- 職場の喫煙状況を把握する
- 社内設備についての方針策定をする
- 受動喫煙防止に関する企業の方針や情報を従業員へ発信する
●職場の喫煙状況把握
把握しておくとよい情報例を紹介します。
- 社内の喫煙者率
- 喫煙者の依存度
- 業務効率における喫煙の影響(タバコ休憩が許容されている、など)
- 禁煙への関心度
- 喫煙に関する知識があるかどうか
- 健康の状態
喫煙者の本音を引き出し現状をしるためにも、喫煙者に対して定期的なアンケート実施が重要です。
喫煙者に対して、自分の状態を意識させるきっかけにもなります。
●社内設備についての方針策定をする
喫煙対策に対する方針によって、必要となる予算も大きく変わってきます。
「全面禁煙」「室内禁煙で喫煙所を設ける」「室内禁煙で、屋外に喫煙所を設ける」
受動喫煙防止の観点から、敷地内に喫煙室の設置するためには、厳しい条件が決められていることは既述した通りです。
方針によって必要となる予算や対策が変わるため、まずは方針を共有することが重要です。
●受動喫煙防止に関する企業の方針や情報を従業員へ発信する
受動喫煙防止について、従業員の理解を得ることがもっとも重要です。
「企業として受動喫煙の防止に取り組む理由」については慎重に説明を行いましょう。
従業員の方に情報発信することで、周囲の人のために喫煙者の対応が求められていることを自覚してもらうきっかけになります。
●「喫煙したくても一歩が踏み出せない喫煙者」への禁煙サポート
現在喫煙中の人のための禁煙対策の中にも企業が行える対策があります。
喫煙対策は、喫煙者が自発的に取り組まないと進むことができません。
関心が全くない従業員は無視してよいわけではありませんが、自分や周囲の人達への健康被害リスクへの関心は高い「喫煙したくても一歩が踏み出せない喫煙者」の禁煙チャレンジをサポートすることで、喫煙率の改善を目指しましょう。
具体的には、企業が禁煙に関する情報発信する、禁煙外来の一部費用を負担するなどの対策があります。
企業様の喫煙対策事例
健康経営優良法人に選ばれている企業様の事例として、中小規模部門の株式会社マイシン様を紹介いたします。
株式会社マイシン様 喫煙対策
株式会社マイシン様は、愛知県の運送業を担う企業様です。
企業の課題として、高い喫煙率が挙げられており、健康経営優良法人に初めて認定された2020年から、喫煙率に対する取り組みを実施しています。
現在では、計画に向けて具体的に以下の取り組み実施をしています。
◎禁煙外来への通院費用は全額会社負担
◎喫煙に関する情報提供(喫煙所での掲示、毎月1回発行している広報誌での話題として)
◎「トラック内の禁煙」ルールを設け、違反者は乗車禁止措置
喫煙率に関しては、2021年度は喫煙者の入社によって喫煙率が上がってしまったものの、マイシン様の営業所のうち1か所において、喫煙率が11%減の結果です。
まとめ
喫煙はタバコを吸う本人以外にも周りの人の健康被害リスクも高めてしまいます。
世界的に見ても、「受動喫煙」の健康被害は深刻なものとして注目されています。
国内においても法の改正や健康経営での喫煙の注目度UPにより受動喫煙対策や喫煙対策への取り組みが必要になっていきています。
企業として、罰則がないことはもちろん、従業員一人ひとりの健康のためにも、それぞれが自覚をもって喫煙対策に臨んでもらえるよう工夫が必要といえるでしょう。
実際の取り組み事例を参考にしてはいかがでしょうか。