長時間労働に悩む企業がすべきこと|企業事例つき

長時間労働に悩む企業がすべきこと|企業事例つき

健康経営優良法人認定基準の中に長時間労働対策に関する項目があるほど、非常に重要な位置づけです。

長時間労働が従業員に長時間労働に関する国の対策や、企業がすべき対策について、事例と合わせて紹介します。

 

長時間労働が引き起こす健康障害とは

長時間労働の健康リスク

長時間労働が日常化していくと、睡眠・休養の時間などの影響が出ます。

休養時間が不足すると疲労の蓄積に繋がり、身体やメンタルの不調に繋がります。

独立行政法人労働安全衛生総合研究所の「長時間労働者の健康ガイド」によると、週労働時間が61時間以上の人は、週労働時間が40時間以下の人と比べて心筋梗塞になるリスクが1.9倍にも及ぶと報告されています。

長時間労働は疲労や睡眠不足の原因であり、脳や血管への負担も大きく突然死のリスクになるのです。

参考 「長時間労働者の健康ガイド」 独立行政法人労働安全衛生総合研究所

 

長時間労働に関する国の対策

長時間労働対策

長時間労働に関する主な国の対策を紹介します。

●残業時間の上限規制

●労働時間の客観的な把握の義務付け

●脳・心臓疾患による労災基準の改正

●勤務時間インターバル制度の導入(努力義務)

詳しく紹介します。

働き方関連法による残業時間の上限規制

 

時間外労働上限規制(厚生労働省)

出典:厚生労働省

2019年4月から労働基準法が改正されました。

以前の法律では、特別条項付き契約を結べば残業時間の上限がないに等しい状況でした。

【従来の条件】

●労働時間は1日8時間、週に40時間以内が原則(労働基準法の第32条)

●雇用者と従業員の合意があれば、1ヶ月45時間、1年間360時間の法定労働時間外の労働が認められる(労働基準法第36条)

●特別条項付きの契約を結んでいれば、1ヶ月45時間、1年間360時間以上の法定労働時間外の労働が認められる(労働基準法第36条【特別条項】)

改正によって特別条項付きの時間外労働が規制が変更されました

【2019年4月以降の条件】

◎時間外労働は年720時間以内

◎時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満

◎時間外労働と休日労働の合計について、「2ヶ月平均」「3ヶ月平均」「4ヶ月平均」「5ヶ月平均」「6ヶ月平均」が全て1月当たり80時間以内

◎時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6ヶ月が限度

違反すると6ヶ月以下の懲役または30万円いかの罰金が企業に課せられることとなります。

 

労働時間の客観的な把握の義務付け

労働時間の客観的な把握については2019年4月の労働安全衛生法の解説によって義務化されました。

今までは、労働時間を把握する方法は企業にゆだねられており、定められていませんでした。

今回の改正によって、

①使用者が現認し、記録する

②タイムカード、ICカードといった客観的な記録を基本として確認、記録する

が原則として決められました。

すぐに導入が難しい場合には、例外的に自己申告による管理も認められていますが、その場合は決められている措置を講ずる必要があるので注意しましょう。

 

勤務時間インターバル制度の導入(努力義務)

2019年4月の働き方改革関連法によって、勤務時間インターバル制度が事業主の努力義務となりました。

勤務終了時刻から、翌日の勤務時間開始までに、一定の時間間隔を空けなければならないとするものです。

一般的な休息を考慮して8~13時間のインターバルが望ましいといえますが、その確保時間については明記されていません。

中小企業のインターバル制度の導入については助成金の申請が可能です。

(労働者災害補償保険の適用事業主で、勤務間インターバル制度の導入を検討している事業主が対象)

参考

勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会関連資料 厚生労働省 

時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース) 厚生労働省

 

脳・心臓疾患による労災基準の改正

「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」報告書の概要

出典:「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」報告書の概要 厚生労働省

従業員が脳・心臓疾患などを発症すると、発症時より6ヶ月前までの業務負担状況が労災認定に関わってきます。

厚生労働省のデータによると、長時間労働や過剰な業務負担が原因の脳・心臓疾患の労災請求件数は、年間700件を超えている状況が長年続いています。(2020年度時点)

2021年9月に、長時間労働が主な原因となる脳・心臓疾患の労災認定基準を改正されました。

今回の改正では、労働時間が基準を超過していない場合でも「労働時間以外の負荷」を総合的に判断するように改正され、労災認定の範囲が拡張されました。

労働時間以外の負荷の代表例を紹介します。

●勤務時間の不規則性
拘束時間が長い
休日がない連続勤務
終業から始業までが短い勤務
不規則な勤務・交代制勤務・深夜勤務

●出張の多い業務
特に時差のある出張

●心理的負荷
事故や災害の体験
仕事の失敗、過重な責任の発生
仕事の質
役割・地位の変化等(退職の強要、配置転換など)

参考

脳・心臓疾患の労災補償について 厚生労働省

脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書 厚生労働省

 

企業がすべき長時間労働対策

 

●労働時間を客観的かつ正確に把握するためのシステム導入

●就業制限のある従業員を認知する

●産業医面談の整備

●長時間労働者に疲労蓄積度チェックリストを実施する

詳しく解説します。

 

労働時間を客観的かつ正確に把握するためのシステム導入

先述した通り、労働時間を客観的に把握することは義務化されています。

自己申告制を導入している企業では、偽りの申告も可能となってしまいます。

誤魔化せない環境で勤怠管理システムを導入しましょう

労働時間を正確に判断できることは、時間外労働、残業、の把握に繋がります。

 

就業制限のある従業員を認知する

健康状態によって、終業時間を制限する必要がある従業員もいます。

特に、産業医の判断によって「就業制限」がかかり、働き方に配慮が必要なケースです。

予め把握しておく必要があるでしょう。

一部例を紹介します。

●健康診断のハイリスク者

●高齢者

●復職直後の場合

●傷病によって治療通院が必要な場合

 

産業医面談の整備

産業医との面談は、長時間労働者のケアのためにも必要です。

労働安全衛生法の改正によって、時間外労働が月100時間を超えた従業員への面談実施が義務化されていましたが、時間外労働月80時間を超える場合の面談実施が義務化されるよう引き下げられています

多くの企業はこの基準の手前の段階で、産業医との面談基準を設けるケースが多いようです。

 

長時間労働者に疲労蓄積度チェックリストを実施する

疲労蓄積度チェックとは、厚生労働省が作成しているものです。

働く人の長時間労働による不調予防を目的とされています。

どれくらいの長時間労働によって不調がでるのかは個人差も大きいく、法律に沿って環境整備をしていても、不調を訴える従業員が居ては意味がありません

先述した脳・心臓疾患による労災基準の改正でもそれは明らかです。

疲労蓄積度チェックでは、20個の質問で本人の疲労に対する自覚症状や勤務状況を把握します。

チェックリストの実施基準も企業で定め、長期労働者を対象に実施していきましょう。

参考

労働者の疲労蓄積度チェックリスト 厚生労働省

 

企業の長時間労働対策事例

立って会議をする様子

長時間労働対策に取り組み健康経営優良法人に選定されている企業を2社紹介します。

 

株式会社アヤハ自動車教習所様|閑散・繁忙期に応じて労働時間を適正化

年間営業時間数が1392時間と長いことが課題の1つとなっていました。

●営業時間削減のために閑散期の教習枠を減らす

●勤怠管理システムを導入し労働時間管理の徹底

●有給休暇取得促進

●ノー残業デーの実施

年間149時間の営業時間削減に成功、営業時間の繰り上げによって従業員の心のゆとりや健康維持増進に繋がっています。

参考

健康経営優良法人2022(中小規模法人部門)認定法人取り組み事例集 経済産業省

アヤハグループHP

 

SCSK株式会社様|残業削減をインセンティブ還元

ITサービスを提供しているSCSK株式会社様。

8年連続で「健康経営銘柄」に選定されている企業です。(2022年時点)

IT業界といえば、24時間365日稼働するシステムが相手で、夜間作業や問い合わせも多いという特徴もあります。

帰りづらい・休みづらい風潮も蔓延していたそうです。

2013年から、スマートワークチャレンジとして月間平均前業時間20時間以内&年次有給休暇取得日数100%を掲げて取り組んでいます。

●浮いた残業代を社員に全額還元

●有給休暇を取りやすい環境づくり

●長時間労働の是正

●業務品質の向上

長時間労働対策以外にも、在宅ワークなどの働き方改革、健康リテラシーの向上などに取り組んでいます。

ワークエンゲージメント、やプレゼンティーイズム、アブセンティーイズムが改善、社員の行動習慣の変化など、データとしても結果がでています。

SCSKワーク・エンゲイジメント、プレゼンティーイズム、アブセンティーイズム

参考: SCSK株式会社HP 健康経営

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